医薬品における医療事故を防止する目的で、病院や調剤薬局などの医療機関は医薬品安全管理責任者を置くことが義務付けられるようになりました。
 

医薬品安全管理責任者は病院長や薬局開設者など、管理者の指示のもと医薬品安全に関する業務を行いますが、表立って仕事をしていることが少ないため、医療機関で仕事をしている人でもあまり聞き慣れない名前なのではないでしょうか?
 

実際に調剤薬局などの現場で、

薬の管理を徹底することによって調剤過誤を未然に防いている例も少なくありません。
 

今回は医療事故防止の縁の下の力持ちとも言える医薬品安全管理責任者の役割について詳しく見ていきます。
 

1.医薬品安全管理責任者になるには

 

「医薬品安全管理責任者」という資格があるわけではなく、医療機関の管理者から任命されて役割を果たすことになるのですが、任命される人には条件があります。
 

医薬品安全管理責任者は、
 

  • 医師
  • 歯科医師
  • 薬剤師
  • 看護師
  • 助産師
  • 歯科衛生士
  •  

    のいずれかの医療系資格を持ち、医薬品について十分な知識を持つ常勤職員と定められています。
     

    医療事故を防ぐためには医療の専門知識はもちろん、専門職の視点やアイデアが不可欠と言っても過言ではありません。
     

    病院における管理者は医薬品安全管理責任者と管理職を兼務できませんが、診療所などにおいては兼務することができます。

    2.医薬品安全管理責任者の業務内容

     

    業務内容については主に、
     

    • 医薬品の安全使用のための業務手順書の作成とその実施
    • 従業員に対する研修の実施
    • 医薬品の安全使用のための情報収集


     

    の3つが挙げられます。

    ①医薬品の安全使用のための業務手順書の作成とその実施

     

    医薬品の業務手順書とは、医薬品の安全に取り扱うのためのもので、医薬品安全管理責任者が作成します。
     

    医薬品の事故を防ぐためのルールブックみたいなものと考えていいかもしれません。
     

    それほど重大な役割を持つものであり、病院や入院施設がある診療所においてこれを作成・変更する場合は安全管理委員会で協議をすることが必要です。
     

    この手順書には、
     

  • 医薬品の採用・購入
  • 医薬品の管理
  • 患者様への投薬指示や調剤
  • 患者様への服薬指導
  • 医薬品の安全使用に関する情報
  • 他施設との連携
  •  

    などに関する項目を記載します。
     

    事故防止に効果的な手順書を作成するには、

    それぞれの項目において医薬品安全管理責任者の豊富な経験や知識が不可欠です。

    ・医薬品の採用・購入に関する項目

     

    医薬品の採用や購入が医療事故とどんな関係があるのか疑問を抱く人もいると思いますが、調剤をする上での安全性を守るのにとても重要なことです。
     

    例えば見た目が似ている薬や同じような名前を持つ医薬品を採用した場合、ピッキングの際の取り間違えを招いて、調剤過誤が起こる可能性を高めてしまうのは簡単に想像がつくのではないでしょうか?
     

    似たような商品名や外観を持つ医薬品の採用を避け、採用医薬品を限定するための検討など、医薬品の採用や購入におけるルールを記載することで調剤過誤を防いでいるのです。

    ・医薬品の管理に関する項目

     

    調剤過誤を防ぐのに医薬品の管理も非常に重要です。
     

    取り間違えミスをしないように、薬品棚における医薬品の配置なども薬局ごとに工夫されています。
     

    名前の似たもの・外観が似ているものを近くに置かない工夫や、

    同じ医薬品でも成分量が違うときは分かりやすく表示することも珍しくありません。
     

    2人の薬剤師で医薬品名を読み上げることで、充填時の確認を徹底している薬局もありますし、五十音順ではなく薬効別に並べて同行薬を周りに置くところもあります。
     

    万が一ミスが起こってしまった時に被害を最小限に食い止めるための対策として、同じ薬で成分名が違うものは成分量の小さいものを上に置き、落ちてしまった時に過剰量投与にならない工夫をするのも管理法の一つです。
     

    このように薬の管理の仕方を工夫しただけで大きな事故が防げるということが実際に多いので、医薬品安全管理責任者の仕事がどれほど重要かわかりますね。
     

    麻薬や覚せい剤原料・毒薬などの管理についても詳しく決められており、調剤過誤を防ぐための医薬品の管理ルールをこの項目に記載します。

    ・患者様への投薬指示や調剤に関する項目

     

    ここでは調剤ミスを起こさないための調剤の手順やミスを見つけるための監査の手順、処方箋の記載方法に対しての細かい取り決めなどを記載します。
     

    手順を確認することや処方箋の記載方法を工夫することで、調剤ミスを防ぐ効果が驚くほど出ることが多いのです。
     

    投薬時に薬歴を確認し、副作用やアレルギーを回避するための対策も含まれます。
     

    ・患者様への服薬指導に関する項目

     

    違う患者様の薬をお渡ししていないかや投与内容が間違っていないかを確認するために、服薬指導時に確認すべき内容を記します。
     

    患者様の氏名、生年月日を確認することから始まり、妊娠や授乳の有無、既往歴や他科受診の有無などが確認項目です。
     

    ・医薬品の安全使用に関する情報関する項目

     

    副作用・相互作用の確認や患者様の情報の取集・処方医への情報提供などに関して記載をします。
     

    実際に事故が起こってしまった際の対応もこの項目になります。
     

    ・他施設との連携に関する項目

     

    夜間や休日の対応方法の記載をします。
     

    ②従業員に対する研修の実施

     

    上記のような業務手順書を実施するために、実際に職員への研修を行います。
     

    いくら立派な手順書を作成しても、職員が把握していなければ何の意味もありませんよね。
     

    職員が手順書を理解・実行することによってはじめて医療事故を防止できますので、そのための研修が行われるのです。
     

    この研修は職員が医薬品の安全使用について再確認をし、新入職員にとっては新しいことが学べる機会にもなっています。
     

    ③医薬品の安全使用のための情報収集

     

    医薬品の安全使用のために必要となる情報を院外の講習会で収集したり、

    医薬品の安全確保を目的とした改善のための対策を実施したりします。
     

    例えば調剤室内で調剤ミスが起こったときに、ミスを起こした本人がメモに書いて提出をし、「職員が起こしたミスの項目を一か月ごとに集計して職員にフィードバックする」という方法で対策が実施されている病院も少なくありません。
     

    自分のミスを書いて他の薬剤師に知らせなければいけないというのは恥ずかしいですし、気が引けますよね。
     

    しかしお互いにどんなミスが起こりやすいのかを知ることによって、次回から自分自身も気を付けることができるのです。
     

    調剤過誤が起こってしまった場合も情報を調剤室の職員全体で共有しますが、これは起こした職員を責めるためのものではなく、今後二度と起こさないことを目的にした情報共有が目的になります。
     

    3.医薬品安全管理責任者の就職と年収

     

    「医薬品安全管理責任者の求人って、ないですよね……?」
     

    と思う人も多いかもしれません。
     

    就職した職場で経験を重ねた薬剤師が任命されることが多いため、外から募集することはあまりないですし、平均年収は経験年数によるというのが実際のところです。
     

    ただ医薬品安全管理責任者の経験があるということは、調剤過誤を防ぐことにおいての信頼や経験があるということになりますので、次に転職活動をするときに役立つ可能性は十分にありますよ。

    4.医療事故を防ぐというやりがいのある仕事

     

    調剤ミスは精神的なダメージが大きく、起こるたびに深く落ち込むのは、

    薬局で働いたことがある薬剤師であればだれでも経験したことがありますよね。
     

    それが調剤過誤となり、万が一患者様に健康被害が出てしまったら、申し訳なさと自己嫌悪でいっぱいになり、立ち直れなくなるほどのダメージになると想像がつく方も多いのではないでしょうか?
     

    調剤ミスや調剤過誤を防ぐため重大な役割を果たしている医薬品安全管理責任者の仕事は、患者様だけでなく従業員をも守る仕事とも言えるのです。
     

    調剤などのルール基準を細かく規定しなければいけなかったり、それを職員に徹底させなければいけなかったりと、大変な仕事なのは確かですが、患者様と職員を守る縁の下の力持ちとしてこれからも活躍が大いに期待されています。