薬学部の講義では市販後調査を治験とセットで学びますので、PMSについてはみなさんご存知だと思います。
 

市販後調査の存在自体は知っていても、医療機関に勤務していると実際に関わることがあまりないため、詳しくは知らない人がほとんどなのではないでしょうか?
 

新薬が発売される前であれば治験薬などに関わる機会があることから、治験の重要性を肌で感じることができますよね。
 

一方で実際に世の中に出た後の薬、市販後調査になると治験ほど大々的に行われないのせいか、その重要性をあまり感じていない薬剤師も実際にいるかもしれません。
 

そんなマイナーな市販後調査について、今回は目的やどのように行われているのかなどを詳しく見ていきます。
 

1.市販後調査とは?

 

市販後調査はPMS(Post Marketing Surveillanc)とも呼ばれ、承認される前の治験・臨床試験がフェーズ1~フェーズ3までありますが、市販後調査は治験後に行われることからフェーズ4に分類されています。
 

市販後調査の業務は主に、
 

  • 新薬発売後に半年かけて全国の医療機関を対象に行う市販直後調査
  • 発売後3年をかけて行う使用成績調査
  • 治験では対象外になった患者様に対する特別調査

 

が行われ、医薬品の適正使用や副作用についての情報を集めるのが一般的です。
 

治験がやっと終わり発売された後もまだこれだけの試験が行われていることから、市販後調査の必要性がわかりますね。
 

安全対策の面で見ても、
 

  • 病院や製薬メーカーが行う副作用・感染症報告制度
  • 発売後4年~10年以内に有効性・安全性を調べる再審査制度
  • 承認された医薬品においてデータを見直す再評価制度
  •  

    という3つの制度のもと行われているとことも大事なポイントで、この3本柱によって市販後調査が成り立っている点も見逃せません。
     

    この制度により、実は効き目がないと発覚したり新たな副作用が分かったりして承認取消になることもあります。
     

    新薬を作り販売することはとても大変で労力がいることですが、厳しい制度があるからこそ患者様が安心して服薬できることにも繋がっているのです。
     

    治験対象から外れた患者様とは?

     

    先ほどご紹介した特別調査においての治験対象ではないというのは、
     

  • 小児
  • 妊婦
  • 高齢者
  • 腎臓や肝臓に疾患を抱えた人
  •  

    などの患者様のことをいいます。
     

    このような患者様に薬を投与するときには安全性が一番心配されるところですが、治験では被験者の対象にならないためどのように安全性情報を手に入れているのだろうと疑問に思っていた人もいるのではないでしょうか?
     

    たとえば、妊娠中に病気にかかってしまった患者様のことを想像してみてください。
     

    妊娠中の人の治験のデータがなく安全性が保障できないためどの薬も処方できないと言われてしまったら、出産するまでその症状に苦しまなければならないことにもなりかねません。
     

    我慢できる症状なら良いものの、耐えがたい症状が発現しても薬を服用できないのだとしたら妊娠すること自体怖くなってしまいますよね。
     

    治験の時点で情報が得られない患者様については、市販後調査の中の特別調査においてデータを収集していてそのデータを実際の治療に役立てています。
     

    市販後調査は治験に比べて軽く考えられがちな面もある一方、調査結果が治療において非常に重要な情報になるほど大事なプロセスなのです。
     

    2.市販後調査は誰が行うの?

     

    医療機関で市販後調査を担当するのは、医師または治験コーディネーターが多いです。
     

    薬剤師がこれを行うことは珍しいですが、私の場合は治験コーディネーターとして医療機関に勤務しているときに担当しました。
     

    薬剤師は普段カルテや検査値を振り返ってみることはあまりないぶん、市販後調査である程度の期間のカルテのデータを調べられたときは、効果や副作用を見ることができてとても勉強になりましたよ。
     

    それに対して製薬会社側で医療従事者のサポートや調査のモニタリングは、MRまたは製薬会社から調査を委託された医薬品開発受託機関(CRO)のPMSが担当します。
     

    MRは一般に営業職というイメージをもたれる傾向にあることから、市販後調査を担当しているのは多くの薬剤師にとっては意外に思う方もいるのではないでしょうか?
     

    具体的には定期的に医療機関に訪問し、症例報告書の書き方などを説明したり今まで書いたものが間違っていないのかチェックしたりしているのですが、彼らのおかげで調査がスムーズに進むと言っても過言ではありません
     

    このように市販後調査は、製薬会社の担当者と契約した医療機関の担当者が協力して行っている点も覚えておいてください。
     

    3.市販後調査の重要性―治験だけでは不十分な理由とは?

     

    市販後調査の目的は治験で得られなかった有効性や安全性のデータを収集することです。
     

    中には「治験と市販後調査を両方行うのは二度手間だから治験だけですべてのデータを得られないの?」と思う人もいるかもしれません。
     

    治験ですべてのデータを得ることは現実的に不可能で、それには次の5つの理由が挙げられます。

    ①投与期間が短い

     

    治験薬を患者様に投与する治験のフェーズ2やフェーズ3は投与期間が1,2年です。
     

    薬の副作用は投与後すぐに発現するものが多いですが、種類によっては発現まで長い期間かかるものもあるため、治験だけのデータでは十分ではありません。
     

    1,2年だけの試験で終わってしまい、その後データを調べられなかったとしたら、薬学的に見てとても不安ですよね。
     

    データを追うことで新たな副作用を見つけることも新たな効果の発見につながることもありますから、市販後調査によって長期的に薬効を見ることは安全性や有効性において不可欠と言えます。

    ②症例数が少ない

     

    治験の症例数は少数の被験者で行われるのに対して市販後調査は何千人もの患者様が対象です。
     

    薬の効果や副作用の発現は個体差も大きな要因になるため、より大勢の患者様のデータがあれば正確性も高まります。
     

    「治験の時点で市販後試験と同じくらいの数の被験者で行えばよいのでは?」という意見も出てくると思いますが、それだけの被験者を集めること自体難しいですし、
     

    集められたとしても彼らの治験を進める治験コーディネーターや治験医師が現在の何倍も必要になるため、簡単なことではありません。
     

    被験者を含めた大多数の人の協力を求めるとなると費用もそれだけかかりますから、大勢の人で治験を行うのは物理的に難しいことが分かりますね。
     

    このように多数の患者様のデータの取得は治験ではできませんので、実際に治療している患者様のデータを集めて調査する市販後調査でそれを可能にしているのです。

    ③患者様の病態がシンプル

     

    治験の被験者になる患者様は治験計画書によって条件が決められている方だけが対象です。
     

    例えば肝臓や腎臓の検査の値を限定している場合や、妊婦や授乳婦が除外されていることがほとんどなことから、被験者である患者様の病態はシンプルだと分かると思います。
     

    シンプルでないともし副作用が出た時にそれが本当に薬の副作用なのか、または別の疾患による症状なのかの判断がつきにくく解析を複雑化させてしまったり、治験薬が他の持病を悪化させてしまったりする可能性も考えられますよね。
     

    実際に患者様に会って治験を進める治験コーディネーターとして考えても、他の疾患への影響を心配をせずに治験薬の効果や副作用だけに集中できる、病態がシンプルの患者様を選択するのはとても理にかなっていると言えます。

    ・市販後調査ならさまざまな病状をカバーできる

     

    治験の都合は分かっても、実際に使用するのは病態がシンプルの患者様だけではありませんから「他の持病を抱えた患者様が使うとどうなるの?」という疑問がわく人もいると思います。
     

    実はそのデータを集めるのが市販後調査の役目であり、薬が発売されると様々な症状の患者様が薬を使いますし、特殊な状態の患者様に投与することもありますので、その症状への影響やすでに服用している薬との相互作用が新たに現れることも珍しくありません
     

    市販後調査はこれらのデータを集め解析することにより、患者様の安全性に役立つ情報を医療機関に提供しているのです。

    ④年齢範囲が狭い

     

    小児や高齢者には薬の影響が強く出ることが知られているように、効果や副作用の発現の強さは年齢によっても違いがでます。
     

    治験の被験者になる条件は年齢も制限されていて、小児・高齢者が被験者になることはほとんどありませんから、治験段階で幅広い年齢層のデータを得ることなかなかできません。
     

    小児科の薬の用量は体重をもとに計算したり、高齢者は腎臓や肝臓の機能低下を考慮して用量を下げて投与したりできますが、副作用においては治験中に起こったもの以外がでる可能性もあり心配ですよね。
     

    新薬の発売後に小児・高齢の患者様がこの薬を必要とする場合は、医師が慎重に投与しながら副作用が万が一出ても重大にならないように観察しているのが実際のところです。

    ⑤適応範囲が狭い

     

    例えば糖尿病の薬の治験では被験者になる条件においてHbA1cなどの検査結果のデータの範囲も決まっている場合があります。
     

    この場合どうなるかというと、治験において血糖値が条件範囲外の人に対してのデータが得られないということです。
     

    範囲内の血糖値の人には効いたけれど、かなりの高血糖の人に対しては十分な効果が見られないということもあるかもしれません。
     

    市販後には範囲外の検査データを持つ患者様にも投与しますから、治験中には見られなかった効果や副作用の発見につながりますね。
     

    このように市販後調査はあらゆる条件の患者様の安全性を守るためにも欠かせない調査なのです。

    4.市販後調査は結構大変な作業?

     

    医療機関で市販後調査を行う時の手順を大まかに言いますと、
     

    対象になる薬を服用している患者様をピックアップ
          ↓↓↓
    決められた症例数が集まったら必要なデータを症例報告書に記載
     

    という流れです。
     

    服用や来院のスケジュール管理などがないことから、治験と比べると簡単な作業ではあるものの、データの入力ミスがないように注意深く行っていく必要がありますので、症例数が多ければそれだけ時間がかかります。
     

    依頼される症例数は調査によって大きく異なり、5例の時もあれば50例のときもあるため、作業は常に一定というわけではありません。
     

    「50例程度なら簡単!」と思う人も中にはいると思いますが、市販後調査を担当すると調査自体を何件も抱えることになりますので、 合計数百例という患者様のデータを追跡する作業は想像以上に大変です。
     

    調査は一回ではなく定期的に行うのが通常なため、私の場合は試験ごとの調査時期にその都度全員のカルテを引っ張り出して検査情報などを調べることが大変だと感じました。
     

    作業が大変である一方、苦労して得たデータの一つ一つが今後の治療に役立つものですから、負担のかかる作業でもやりがいを感じることができますよ。
     

    5.市販後調査ではどんなことを報告するの?

     

    市販後調査のデータの内容は主に、
     

  • 年齢
  • 性別
  • 対象薬の投与歴
  • 併用薬
  • 検査データ
  •  

    などがあり、症例報告書にこれらを記載します。
     

    症例報告書は電子媒体の時もあれば、紙媒体で依頼されることもあり、最近では電子媒体が特に多いです。
     

    データをただ記載するだけの仕事は単純で退屈な作業だと思う人も多いと思いますが、調査をしていくうちに今まで気づかなかったデータの変化に注目できたり、
     

    患者様の症状が良くなっていることを発見できたりと、薬剤師にとってとても興味深い情報が得られることも少なくありません
     

    症状や検査値の異常などで相互作用や副作用が疑われる場合には直接医師に報告することも可能ですから、薬剤師業務とは違う方面での患者様への貢献も期待できますね。
     

    市販後調査はデータをさまざまな医療機関から集め解析をするだけでなく、このように自分の職場において患者様一人一人のデータをじっくり見る機会にもなります。
     

    何も考えずにデータだけを入力して提出することも可能ですが、せっかくカルテを読む機会を与えられるのですし、患者様に何が起こっているのかを読み取りながら市販後調査に携わってほしいです。

    患者様への感謝の気持ちを忘れずに

     

    今回は市販後調査について見てきました。
     

    治験と比べるとあまり知られていないものの、今後の治療においての必要性を考えると、とても重要な調査だということが分かったのではないでしょうか?
     

    実際に薬を服用した患者様から得られた情報が他の患者様の治療に役立ったり、医療に携わっている私たちにとっての貴重なデータになったりしています。
     

    このことを念頭に入れ、市販後調査などで患者様のデータを取り扱う際はそれをただの数値として取り扱うのではなく、大切な情報として敬意を払う姿勢は欠かせません。
     

    データを取り扱う仕事はどうしても事務的になってしまうことが多いですが、データを提供してくれた患者様への感謝の気持ちをもつことも医療従事者として忘れないでくださいね。